情報共有について問われれば、かつて社員教育や現場で学んだことがある年配社員
は、「報告・連絡・相談が基本」と即答します。実行しているかいないかは別とし
て、「ホウレンソウ」は社内の意思疎通をはかるのに必須のビジネスマナーである
ことを多くのサラリーマンは知っています。上司に聞かれたら、そう答えれば無難
だからです。
このビジネスマナーは、上司が部下に一方的に求めるものです。部下に要求する内
容と同じ程度の内容を、上司は部下に報告・連絡・相談しません。たとえば、会社
が破綻するという話は、上司からではなく、外部のニュースで知ります。会社が破
綻しそうになっているとき、上司は部下に現状を「報告・連絡・相談」しません。
会社の存続にかかわる重要情報を事前に部下に知らせると、さらに状況が悪化する
恐れがあるからです。一方通行の情報下で暮らす経営幹部が、従業員のモチベーシ
ョンをぶっ壊しています。
1)稟議保留
この人は、幼少期は種子島の神童といわれ、上京して東京のW大学に学びそして大
手IT企業に就職しました。晩年、社長出張時に稟議決済の最終決裁者になったと
き、この元種子島の神童は、100万円の稟議について、これを承認、否認または
差し戻すべきところ、何と保留にしたことがあります。申請内容の補正を求めず期
限のある案件を保留したのです。申請者としてはサプライズでした。この男は、意
思決定をしないという意思表示をしたのです。
2)経営会議報告
さらに、この人は、部下を集めた部門会議で経営会議の内容を、無難なものに限っ
て部下に伝えていました。経営会議での重要事項は、必要と考える事項だけを部下
全員に伝え、詳細は一部の子飼いの部下だけに漏らしていました。一方、この人よ
り格上の幹部が率いる別の部門では、経営会議の詳細を部下に伝え、会社の現状と
経営幹部の意向が理解されやすい環境を提供していました。情報の一方通行は、こ
の会社の標準ではなく、属人的な欠陥であったのかもしれません。
3)議論をしよう
この属人的な弱みをもつ幹部は、難しい案件が発生するたびに、社内会議で「議論
をしよう」といいました。こいつの辞書には「相談」はなく、稟議決済時の保留と
同様、意思決定を求められたら、とにかく議論を指示することで先送りしました。
2~3年で人事異動する日本の会社では、大きなリスクを負わず次の異動を待つの
が生き残りの定石ですから。
4)形式に満足する
この人からひとつ学んだことがあります。報告することがなくても、とにかく前回
報告よりは進展していることを目に見える形にするということでした。たとえば、
11月までの達成目標100に対して、9月末は0、10月末60という見通しの
ときは、9月末は1でもいいからとにかく0にしないで、形式的に進捗しているこ
とを記録に残すという手法です。報告するものがなくても報告するというのは、形
式に満足する日本の会社では必須条件でありました。「ホウレンソウ」はこの形式
を満足させるためのお約束事であったような気がします。