金言−344:幸運な会社

サニーとカローラがしのぎを削っている頃、マーケットシェア2位の会社のセール
スマンは自社の「技術の優位性」を前面にだし、「営業力」と「車内装飾(ギミッ
ク)」面ではNO.1に負けているといっていました。業界NO.1の座を維持する
には、営業力や商品開発力や資金力が競合他社より勝っていなければなりません。
NO.2はこれが足りないのでNO.1になれないわけです。知名度・販売網が弱い
が、会社の技術力や製品の性能では負けていないといっても消費者の気持ちをつか
むことは困難です。

昔話ですが、サッカーシューズで有名なドイツのスポーツ用品メーカーが業界首位
であった頃、この会社に斬新な商品企画を持ち込まれたことがありました。開発者
は、業界首位の会社に対して最初に売り込みをかけたそうです。商品企画の内容は
、スポーツシューズのミッドソールにエアを封入してクッション性を高めるという
ものでした。ところがマエストロの誇り高いドイツ人のプロダクトマネージャーは
、この企画を門前払いしました。主な理由は、ふわふわして安定性がないというこ
とのようでした。そこで、開発者は次にナイロンアッパーのランニングシューズで
一世風靡した米国の会社に声をかけました。採用したこの米国の会社は、幸運でし
た。エアシリーズとして商品化に成功し、これが、今日の世界首位の座を不動のも
のとするきっかけとなりました。エアの中身はフロンガスだという悪意の風評もあ
りましたが、エアの勢いは失速しませんでした。

次に、スポーツシューズのアッパーにソフトレザーを使う企画が、当時まだ勢いが
衰えていなかったあのドイツのメーカーに持ち込まれました。誇り高いこの会社の
プロダクトマネージャーは、柔らかいレザーを耐久性に劣るという理由で再び採用
を見送りました。後日、このソフトレザーは別の幸運な会社が採用しました。この
白いソフトレザーシューズをインストラクターが着用するファッション作戦が奏功
し、エアロビックス大流行のトレンドにのってこの会社は、スポーツシューズ業界
3位に急浮上しました。

今年はオリンピックが開催されます。LZRという水着の出現で、日本企業が選手
に提供している競泳用水着では英国ブランドの水着(LZR)を着用するライバル
に勝てないことが明らかになりました。従来、日本は3大メーカーが輪番制でスポ
ーツイベントのスポンサーになり、多額のマーケッティングフィーを払い、共存共
栄をはかってきました。ところが、6月初旬、LZRという英国企業がNASAと
共同開発したという水着を着用した日本選手が自己ベストを次々と更新しました。
もちろん、日本のメーカーが外部からの商品企画や素材の売り込みを門前払いした
結果、このような窮地に追い込まれたわけではないと思います。
日本の3大メーカーの売り上げに占める水着の割合は3%程度のようで、当面の業
績に与える影響は軽微でしょうが、五輪の舞台でのブランドイメージダウンは、敏
感に反応する株式市場では3%以上の負のインパクトを与えるにちがいありません
。もちろん、この水着の販売権をもつ幸運な日本企業の株価は上昇し、3%以上の
企業価値高騰の恩恵を受けています。

ただし、このLZRの生地は0.3MMの極薄で伸びない素材なので、耐久性に弱
点があり、かつ、1日70着しか生産できないという需給面での不安があります。
日本企業が、製品の耐久性と供給面で優位性を証明できれば、劣勢を挽回する可能
性もあります。

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