金言-923:お中元、お歳暮、手土産

お中元

スマホで気軽に自撮りができる環境が無かった頃の話です。
当時160有余国に子会社や販売代理店を展開していたグローバルな企業では、アジア・パシフィック市場をめぐって覇権争いがありました。ライセンス販売権を新規参入の企業が狙う一方、既存ランセンシーはライセンサーの立場を狙っていました。ブランドの販売権を獲って市場参入するか、それともブランドそのものを買い取って商いを維持するかの駆け引きでした。ライセンスオーナーは、どちらを選んでも資金繰りが楽になります。当時の円で年商30億程度のサブブランドでした。その年の仕事納めの日、キャッシュがオーナーに流れ、ブランドは切り売りされました。その年のたくさんのお中元、お歳暮、毎回の手土産の費用は監査で指摘されないよう専門家が適切に処理していました。

売却に至る戦略会議はG20みたいなもので主要国の代表と本社幹部スタッフで全体会議と個別会議がそれぞれ開催されていました。その会議で、極東の子会社の代表は片言の英語ながら各国の代表者に良く知られた存在でした。彼の得意はコミュニケーションで、彼から届く手土産を各国の代表者は楽しみにしていました。その土産の一つが、密室のはずの会議でのスナップ写真でした。まだ個人情報保護などというセキュリティーポリシーの概念が生まれる前でした。被写体の皆さんのなかで、重要会議でのアピアランスの証拠写真を迷惑だと思う人物はいませんでした。貴重な一コマ、自分の存在を家族へのアリバイとして活用したようです。写真を撮ったのは、重要会議のメンバーであり、エコノミックアニマルと呼ばれたスーパー営業マンが活躍する国を代表する人物です。細かい会議の内容は彼の英語の理解力を上回るので、そのハンディをスナップ写真で補ってしていました。会議中に席をたって写真を撮るという議長の機嫌を損なう危ない振る舞いですが、この姑息な行為は出席メンバーの許容範囲でした。この男は自分にとって危険な存在ではないと写真をもらった幹部連中にはうつりました。出席メンバーにとって重要会議での誇らしいシーンを記録した銀塩写真はカネで買えない記念品であり、ヘッドハンター向けのセールスツールにも使えました。
いい時代でした。

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