金言−402:懐かしい音

パブリックスペースでの喫煙がご法度になる前、喫煙者が多数派であった頃の話で
す。当時の若者は喫煙・飲酒によって大人の仲間いりをしたことを目に見える形で
表現していました。

1993年春にフジテレビ系で放送された『振り返れば奴がいる』が再放送されて
います。劇中で、織田裕二演じるドクターが頻繁に喫煙しているのを見て、デュポ
ンのライターを思い出しました。ライターの蓋を開けた時に、キーンといい音がし
ます。ピアノ線が張られているのでいい音がすると、当時の職場の年長者から聞い
た覚えがあります。

当時のフランス料理のウェイターや宴会の黒服(ボーイ長)は、常客からもらった
あぶく銭のチップで買った、給料の半分ぐらいする高価なデュポンのライターを持
っていました。彼らはお客さまのタバコに火をつけるときに、このライターを使い
ます。そのとき、『振り返れば奴がいる』のシーンと同じ効果音がライターから聞
こえます。この効果音を出せるのは、高額なチップを稼ぐウェイターの証でした。
クリームコートのウェイターは数年待てば黒服に昇格するので、とにかく、チップ
を貯めてデュポンを買うのが職場のお約束でした。

金無垢か金張りか忘れましたが、とにかく高価なライターでした。ヘッドウェイタ
ーは会社貸与のタキシードに自前のイタリア製エナメルシューズとデュポンのライ
ターを身につけて、生意気な接客をします。常連客はそれが可愛くてチップをはず
みます。

100円ライターが主流になって以来、高価なデュポンのライターの蓋を開いた時
のキーンとかチーンとかいうバブリーな音を聞くことはなくなりました。再放送の
テレビドラマで久しぶりに聞くことができました。日本経済が右肩上がりに上昇し
ていた頃の懐かしい音でした。

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