「人は自らの経験からは学ぶが、先人の経験からは学べない」
元英国蔵相ナイジェル・ローソン氏の一言。
1)鐘つき当番
某オーナーカンパニーの先代会長の墓守当番をグループ企業従業員が輪番制で行って
いました。3社から1名ずつの3人1組で毎晩、鐘楼の隣にある小屋の2階で当直で
す。お茶と夜食にカップラーメンが用意されていました。グループ会社から別々に、
古参・中堅・新人と必ず3世代になるよう人選をします。当直当番は、夕方集合し、
廟の周囲を掃除し、翌朝まで、決まった時刻に鐘をつきます。間違えないように小石
をつく数だけ鐘楼におき、ひとりがつき、ひとりが小石を数え、もうひとりは、つく
タイミングをはかります。近隣の住民が毎晩聞いているので、タイミングが狂ったり
、時刻がずれたり、数を間違えると、本社にクレームがくると古参に脅かされます。
鐘つきの合間に、当直部屋で、先代の故会長のご遺訓を学び、古参の従業員が直接体
験した先代の言動を中堅・新人に語り継ぐのが、もう1つの大事なプログラムです。
この当直当番で、グループ企業の求心力となる創業者の故会長を偲び、墓前で業務に
精進することを誓います。
2)会議の上席にはかならず空席がひとつ
重要な会議では、かならず上席にひとつ空席を設けます。故会長の席です。常に故会
長が臨席していることを意識し、ご遺訓に照らし、現在の課題を故会長ならどう処理
するかを考えながら、会議し、意思決定をしていきます。
3)思い出話
あるとき、本社男性従業員全員が集められ、名札のある席につくよう指示されました
。そして、長時間にわたって、故会長にまつわるエピソードが二代目の側近たちによ
って語られました。先代が亡くなってから入社した本社勤務の従業員が主なターゲッ
トでした。先代会長の思い出話を追体験するよう会社は求めました。二代目の思いつ
きで腹心が始めたキャンペーンだったと想像します。経営幹部の思い出話をききなが
ら、この人たちの意図は何かと考えながら、ふと窓の外に視線を移しました。この瞬
間を見逃さなかった某側近を通じて、上司から会議室での不遜な態度について厳重指
導を受けました。これは、待遇と賞与の減額につながる不利益処分と同じ効果があり
ます。
故会長のご遺訓ではなく、ご遺訓にそって日夜業務に精進してきた側近や古参社員・
上司とのダイレクトコンタクトで多くを学びました。故会長のおかげです。先人を超
えることはできない、ただ、目指すのみといったところです。
◆あとがき
本社の一課に各一台、MSDOSパソコンとワープロが初めて導入されたときの笑い
話です。パソコンは主に経理処理の補助としてオフラインで使用されました。定型的
な入出力のため、使い方の講習会はありませんでした。ワープロの利用目的は特定さ
れなかったようです。このワープロを使って、社内委員会の議事録と実習レポートを
作成し、提出したところ、職場長から「ワープロを文書の清書のために利用してはい
けない」と注意され手書きでの再提出を指示されました。ひとつの課がワープロで作
成した文書を会社に提出すると、たちまち、全社レベルでワープロを使って文書を作
成し提出しなければならなくことを恐れたためです。他の部署に多大な迷惑をかける
ことを嫌ったのです。すべての文書は二代目または側近に届けられ、今までと変わっ
たことをすれば、鶴の一声で何かが変わるからでした。