金言-195:M&A

8月3日にドイツ南部、ニュールンベルグの郊外に本社があるスポーツシューズメー
カーは、米大手スポーツブランドを買収すると発表しました。来年6月に開催される
サッカーワールドカップドイツ大会までに新体制に移行する見通しとのこと。

この会社がファミリー企業から公開企業へと移行する間、暗黒時代が少なくとも数年
続きました。息を吹き返したように思える現在、この会社の暗黒時代の歴史はすでに
書き換えられていることでしょう。創業者のジュニアが存命中のとき、この会社にM
&Aされた某ブランドの元オーナーのカナダ人実業家から酒席で聞いた、記録される
ことのないこの時代のエピソードの一部をご紹介します。

1)安定性に劣るシューズは不要
ヒール(かかと)にガスをいれクッション性を向上させた新機能シューズを開発した
会社が、当時スポーツ用品業界首位であったドイツファミリー企業にこのシューズを
売り込みました。ドイツ人は、クッション性を評価できず安定性に劣るということで
、断りました。「エアー」開発者は、次に米国で台頭している軽量ナイロンアッパー
のランニングシューズの会社に声をかけました。このシューズを採用した米国の会社
は、後に「エアー」シリーズで業界首位の座を手に入れました。(エアーが転がり込
んでくるまでは、この会社はランニングシューズの膨大な在庫をかかえ、日本の商社
から運転資金援助を受けていました。この日本の商社はロッキード事件で有名になり
ました。)

2)耐久性に劣るシューズは不要
軽くて柔らかいレザーアッパー(甲の部分)を使ったシューズを開発した会社が、当
時業界首位であったドイツの会社に売り込みに行きました。世界一の会社のドイツ人
たちは、耐久性に劣るシューズを嫌いました。燃費を犠牲にしても頑丈な戦車(タイ
ガー)を作った国民性でしょうか、すぐ壊れる華奢なシューズは受け入れることがで
きませんでした。そして、軽いソフトレザーシューズを採用した会社は、エアロビッ
クスの流行との相乗効果により一時米国でNO.2の座に昇りました。

3)後から来た者に追い越され
「エアー」を採用したブランドも、白い「ソフトレザー」を採用したブランドも、ド
イツのファミリー企業が世界市場を独占していたときに、ゼロから生まれた会社が育
んだものです。もし、当時の純正ドイツ人マイスターが「クッション性能」「カジュ
アル」「軽量化」などの新機能を受け入れていたら、将来のNO.1企業の芽を摘む
ことができたかもしれません。

4)塩をおくる
日本の企業も、このファミリー企業の衰退に手を貸しました。
神戸に本社がある、キャンバスアッパーのバスケットボールシューズで一世風靡した
会社です。この会社は、大学卒業間もない米国の若者に米国市場販売権を与えました
。彼は、米国での日本ブランドシューズの販売に成功しました。この成果に対して日
本の製造販売元は欲を出しました。この若者から販売権を取り上げ、米国子会社で直
販することにしました。この若者は販売権を失いましたが、顧客を失ったわけではあ
りませんでした。対抗処置として自前のブランドを立ち上げて、商売を継続しました
。後にこの会社はスポーツ用品世界一の企業に成長しました。もし、日本の企業が米
国市場をこの若者にまかせていたら、米国発のスポーツブランドの発生をけん制し、
日本ブランドのマーケットシェアが拡大していたかも知れません。
もちろんこの場合、ドイツブランドの首位の座は不動のものとなったことでしょう。

5)M&A
「ソフトレザー」で大成功した会社の当時のオーナーは、ユダヤ系英国人でした。こ
の人はこの会社を売却して大金を手にしました。その資金を元手に、ドイツ企業にM
&Aを仕掛けました。暗黒時代のファミリー企業は、販売不振と相続税の支払で資金
繰りに困っていました。老舗のドイツファミリー企業を英国籍のユダヤ人実業家が買
収するということで話題になりました。しかしながら、半年かけた精査で、隠された
負債と将来のリスクを見つけました。ユダヤ人はドイツ企業を次期オーナーの立場を
活用して徹底的に内部調査したうえで、M&Aを白紙に戻しました。この人はM&A
の資金を英ポンドから独マルクに換金していました。成功する人には為替も味方しま
す。マルクをポンドに戻しただけで、株主を納得させるに十分な巨額の為替差益を計
上しました。

あれから10数年後の現在、ドイツ企業は暗黒時代のつけを清算し、年商相当額のコ
ストをかけて米国市場でM&Aをしかけました。「ソフトレザー」の会社を買収して
、断トツ首位の「エアー」の会社に対抗しようとしています。昔、「エアー」と「ソ
フトレザー」を否定したA級戦犯はすでに引退し、清算をしているのは、暗黒時代後
に入社したいわば戦後派の経営幹部です。

◆あとがき
例によって、郵政民営化解散で外国人投資家が日本株から資金を引き上げ、株価は下
落すると分析した人たちは、8日の14:00から「想定外」と論調を変えました。
いわゆる「だまし」でした。自腹を切らない経済評論家、株屋さんたちは、いつもこ
れです。でも、自分が買った株が上がった場合は別です。テレビでもっともらしく後
から分析してくれるのは、見ていて気持ちのいいものです。応援している野球チーム
が勝ったときに、何回もVTRを見てしまうようなものでしょうか。

郵政民営化法案否決、衆院解散でも株価が堅調に推移するとしたら、「経済の政治ば
なれ」が進行しているといえるかもしれません。危機は、危険の「危」と機会の「機
」を合わせた言葉という人がいます。ピンチの後にはチャンスが来ます。今、チャン
スかも知れません。

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