金言-191:まだ目立った影響は出ていない

4月に発生したトラブルによりブランドイメージが低下し販売が苦戦した某ソフトウ
ェア会社が第2四半期の業績下方修正を発表しました。この会社の経営企画部は、法
人向けの減収リスクについては長期契約のため「まだ目立った影響は出ていない」と
コメントしました。

「まだ」の意味:
この先、法人契約更新時のさらなる減収が、避けられないリスクとしてあるというこ
とです。この会社の株主は、「まだ」というネガティブな発表は聞きたくなかったで
しょう。営業努力により損失をミニマムにしたことを強調し、早期の信用回復をねら
うというポジティブな言葉を、たとえリップサービスだとしても株主は聞きたかった
と思います。不利な発表をするということは、情報開示の整合性が厳しく評価されて
いるという証拠かもしません。営業支援的な楽観的発表をした後、次の第3四半期に
法人営業の不振による業績下方修正を発表することになると、市場を裏切ることにな
り、深刻な状況に追い込まれることはまちがいありません。会社にとって不利な情報
でも開示しなければならないというトレンドです。

「まだ」という言葉から感じたこと:
トラブルを抱える会社の営業サイドの強気な姿勢は、業績回復の近道ではないようで
す。たとえ不利になっても事実を開示し、正しい現状認識にたって事業再構築をして
いくという姿勢が業界標準になっていくのかもしれません。

個人の立場での「まだ」:
「まだ」という言葉を使わず当座の損害をミニマムにしようとする立場に立つ人と、
当座の損害よりも事実を開示することを選ぶ人がいます。少し話題がずれますが、相
手の立場を悪くするような行動を控える人と、控えない人の違いは、相手をかばうこ
とによって自分が負うリスクを受け入れるか拒否するかの違いだと思っています。し
たがって、些細なことにも目をつぶらない人とは、リスクは共有できません。信じる
というのはリスクを負うことであり、利益は信じ合う者の間で享受することになるは
ずです。

投資判断での「まだ」:
リップサービスをせず、業績不透明感を認めるわけですから、この会社は「売り」と
なります。某証券会社の投資判断は「HOLD」から「SELL」に引き下げられています。
信用回復、業績上昇基調に戻るまでには時間がかかります。時間を買う立場にとって
は「待てない」です。「収益にまだ目立った影響は出ていない」という経営企画部の
コメントの、「まだ」というこの二文字で、この銘柄をまだ保有していた某個人投資
家は、売りを選びました。3ヵ月後にまた下がるというストレスから開放されます。
すでに市場は、トラブルによる減収を織り込み済みかもしれませんが。

◆あとがき
個人情報漏えいによる実害が報道され、情報保護の重要性が話題になっています。先
日、異業種の会社と共同で提供するサービスを開始するにあたって、機密保持契約を
締結しようとしました。ところが、先方の担当者が、会社の実印をもらうのは面倒だ
をもらうのは面倒だからという感覚には驚かされました。契約書を締結して作業開始
をするという習慣のない業界なのでしょう、見積書は担当者の認印で済ませています
。仕事がいい加減でもなく、大企業との取引実績もしっかりあるのですが、受注して
いる仕事が柔らかいのでしょう。情報漏えいが死活問題にはならず、業界ではよくあ
ることで、それよりも、筋を通すとかあいさつを入れるとかいう方が優先されます。

こういう会社と付き合うには、まずは、しっかりと法的に有効な契約書を交わし、担
当者レベルで発生する属人的な機密保持の脆弱性から損害が発生してしまうというリ
スクを少しでも回避したいものです。

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